日々の「できた」を積み重ねる 定年後に自己肯定感を高める小さな習慣
定年後の日常と心の変化
長年、仕事を中心に生活が営まれてきた方にとって、定年後の生活は大きな変化をもたらします。時間の使い方が自由になる一方で、会社という組織や役職から離れることで、自身の役割や社会とのつながりを感じにくくなることもあるかもしれません。これまで当たり前にあった目標や、達成することによる充足感が得られにくくなり、漠然とした不安を感じたり、自己肯定感が揺らいでしまったりすることも少なくありません。
「自分は何のために生きているのだろう」「社会に貢献できているのだろうか」といった問いが頭をよぎり、自信を失いかけてしまう方もいらっしゃるかもしれません。しかし、このような時期だからこそ、意識的に心のあり方や日々の過ごし方を見直すことが、その後の人生を豊かに送るための鍵となります。
大きな目標だけが全てではない
定年後、「第二の人生をスタートする」といった言葉に触れる機会もあるかと思います。確かに、新しい大きな目標を持つことは素晴らしいことです。しかし、すぐに大きな目標が見つからなかったり、設定した目標に対してなかなか成果が出なかったりすると、かえってますます自信を失ってしまう可能性もあります。
自己肯定感は、何か特別な大きな成功を収めた時にだけ高まるものではありません。むしろ、日々の小さな「できた」を積み重ねることによって、着実に、そして持続的に育まれていくものです。日常の中にある小さな達成感こそが、心の栄養となり、「自分はできる」という感覚を醸成してくれます。
日々の小さな成功体験を意識する
では、日々の生活の中で、どのように小さな成功体験を作り、自己肯定感につなげていけば良いのでしょうか。いくつかの具体的な方法をご紹介します。
1. スモールステップで目標を設定する
大きな目標を立てるのが難しい場合は、ごく小さなことから始めてみましょう。「毎日〇分間、家の周りを散歩する」「今日は読みたいと思っていた本を3ページだけ読む」「新しい料理のレシピを一つ試してみる」「部屋の一角だけ片付ける」など、すぐに達成できそうな具体的な行動目標を設定します。
ポイントは、「完璧でなくて良い」と考えることです。たとえ計画通りに進まなくても、少しでもできた部分に目を向けます。
2. 「できたこと」を記録する
一日を終える前に、今日「できたこと」を書き出す習慣をつけてみましょう。どんなに些細なことでも構いません。例えば、「朝、いつもより早く起きられた」「友人から来た連絡に返信した」「気になっていた場所の掃除をした」「テレビで見た健康情報のストレッチを少しだけやってみた」などです。
「To Doリスト」のように「やるべきこと」を書き出すのではなく、「実際にやったこと」を書き出すのがポイントです。これにより、自分の一日の行動を肯定的に捉え直すことができます。
3. 自分自身を褒める
「できたことリスト」を眺めながら、心の中で、あるいは声に出して「よくやった」「頑張ったね」と自分自身を褒めてあげてください。他人からの評価が得られにくい環境では、自分で自分を認める「内的な承認」が非常に重要になります。小さなことでも自分自身を褒めることで、達成感と自己肯定感が高まります。
4. 他人との比較をやめる
他人の活躍や成功と自分を比較しないことも大切です。SNSなどで友人や知人の華やかな定年後ライフを見て、「自分は何もできていない」と感じてしまう必要はありません。人にはそれぞれのペースと価値観があります。比較するべきは、過去の自分自身です。昨日や一週間前の自分よりも、ほんの少しでも前進できたことに意識を向けましょう。
習慣化の力
これらの小さな実践を続けることで、それはやがて習慣となります。習慣になると、特別な努力を必要とせず、自然と日々の生活の中に溶け込んでいきます。そして、毎日少しずつでも「できた」という感覚を得られるようになると、それが自信につながり、さらに新しいことへの挑戦意欲が生まれてくるという好循環が生まれます。
無理なく習慣化するためには、自分が心地よいと感じるペースで始めること、そして、できた時に自分を褒めることを忘れないことが重要です。もし途中で挫折しそうになっても、「まあ、こんな日もあるさ」と軽く受け流し、次の日から再開すれば良いのです。
まとめ
定年後の人生は、自身のペースで、自身の価値観を大切にしながら生きることができる貴重な時間です。大きな目標を探したり、焦ったりする必要はありません。日々の生活の中で、達成可能な小さな目標を設定し、それをクリアするたびに自分自身を認め、褒めてあげる。このシンプルな繰り返しが、揺らぎがちな自己肯定感を根元から強くし、前向きな気持ちで日々を過ごすための確かな土台となります。
小さな「できた」を積み重ねる習慣は、やがて人生全体を豊かに彩る大きな力となるでしょう。今日から、できることから一つ、始めてみてはいかがでしょうか。