完璧主義を手放す 定年後の人生を身軽に楽しむ心の持ち方
定年という大きな節目を経て、これまでの生活とは異なる時間が始まります。新しい生活に期待を寄せる一方で、漠然とした不安や、何かを始めようとしたときの「どうせうまくいかないだろうか」といった躊躇を感じる方もいらっしゃるかもしれません。
長年、仕事や社会生活の中で培ってきた価値観の中には、「物事は完璧に行うべきだ」「失敗は許されない」といった考え方が根付いている場合があります。特に、責任ある立場を経験されてきた方ほど、無意識のうちに自分自身に高い基準を課してしまいがちです。こうした完璧主義的な傾向が、定年後の自由な時間を楽しむ上で、知らず知らずのうちに心の重荷となっている可能性も考えられます。
この記事では、定年後の人生を前向きに、そして身軽に楽しむために、この「完璧主義」という心の持ち方をどのように捉え直し、手放していくかについて考えていきます。心が軽くなることで、新しい一歩を踏み出す勇気が湧き、自分らしい豊かな時間を過ごすヒントを見つけられるはずです。
定年後の完璧主義がもたらす影響
現役時代、仕事においては「完璧さ」が求められる場面が多くありました。その習慣が定年後にも続くと、日常生活や新しい挑戦において、様々な影響が出てくることがあります。
例えば、新しい趣味や学びを始めたいと思っても、「完璧に習得できないなら意味がない」「失敗して恥をかきたくない」といった考えが浮かび、最初の一歩が踏み出せないまま時間が過ぎてしまうかもしれません。また、料理や家事といった日々のことに関しても、「もっときれいにできたはず」「あの人に比べて自分は不器用だ」などと、自分を責めたり、他人と比較して落ち込んだりすることが増える可能性もあります。
完璧を目指すあまり、行動する前に考えすぎてしまい、結局何も始められない。あるいは、完璧にできない自分を否定してしまい、自己肯定感が低下する。このように、かつては仕事の質を高めるために役立っていた完璧主義が、定年後の自由な時間においては、かえって自分自身を縛り付け、可能性を狭める要因になってしまうことがあるのです。
完璧主義を手放し、心を軽くするための考え方
では、どのようにすれば、この心の重荷である完璧主義を手放し、もっと自由に、自分らしく生きられるようになるのでしょうか。いくつかの考え方をご紹介します。
「まずやってみる」ことの価値を再認識する
完璧な準備が整うのを待ったり、完璧な結果を求めたりするのではなく、「まずはやってみる」という姿勢を大切にしてみましょう。定年後の人生において大切なのは、結果の完璧さよりも、そこに至るまでの過程や、そこから得られる経験、そして何よりも「自分が楽しむこと」そのものかもしれません。新しいことに挑戦する際は、「これは完璧を目指すものではなく、経験するためのものだ」と考えてみると、気持ちが楽になることがあります。
「80点で十分」という感覚を持つ
何事も100点満点を目指すのではなく、「80点取れたら十分」という感覚を持つことも有効です。完璧を目指すと、どうしてもハードルが高くなり、途中で挫折しやすくなります。しかし、ある程度の質で満足するという基準を持つことで、行動に移しやすくなり、小さな成功体験を積み重ねることができます。この小さな成功体験こそが、自信を育み、次のステップへの意欲につながります。
失敗を学びの機会と捉える
完璧主義は、失敗を過度に恐れる気持ちと結びつきがちです。しかし、失敗は誰にでもある自然なことですし、そこから多くのことを学ぶことができます。定年後の時間は、現役時代のように大きな責任を伴わない場面が多いからこそ、むしろ「失敗しても大丈夫」と気楽に捉え、新しいことに挑戦する絶好の機会と考えることができます。失敗から得た気づきを次に活かそう、という前向きな姿勢を持つことで、自己否定ではなく自己成長につながります。
自分の中の「べき」を疑う
私たちは社会や家族、自分自身に対して、様々な「〜であるべき」という固定観念を持っています。「こうでなければならない」という思い込みが、自分自身を苦しめている場合があります。定年後は、これまでの「べき」から解放され、自分にとって本当に心地よい生き方、価値観は何なのかを見つめ直す良い機会です。「こうあるべき」という考えが浮かんだら、「本当にそうだろうか」「他の考え方はできないだろうか」と問いかけてみましょう。
完璧主義を手放すための具体的な行動
考え方を変えるだけでなく、具体的な行動も取り入れてみましょう。
新しい挑戦は「お試し期間」と考える
何か新しいことを始める際、最初から「本格的に取り組むぞ」と意気込むのではなく、「まずは数回だけ試してみよう」「どんなものか経験してみよう」といった「お試し期間」と位置づけるのはいかがでしょうか。これにより、心理的なハードルが下がり、気軽に一歩を踏み出しやすくなります。
「できたこと」を意識的に書き出す習慣をつける
完璧にできなかった点や反省点ばかりに目が行きがちな傾向があるなら、その日の終わりに「今日できたこと」を意識的に書き出してみましょう。どんなに小さなことでも構いません。例えば、「朝、いつもより早く起きられた」「新しい本を数ページ読んだ」「散歩に出かけた」などです。「できたこと」に焦点を当てることで、自己肯定感を高めることができます。
完璧ではなく「完了」を目指す小さなタスクを設定する
家事や片付けなど、日常生活のタスクにおいて、「すべて完璧に終わらせる」ことを目指すのではなく、「この棚だけ片付ける」「洗濯物をたたむだけ」といった、完璧でなくても「完了」できる小さな目標を設定してみましょう。これを毎日繰り返すことで、達成感を得やすくなり、自己肯定感につながります。
まとめ
定年後の人生は、これまでの価値観にとらわれず、自分自身の心と向き合い、自分らしい生き方を探求できる貴重な時間です。長年の職業生活で培われた「完璧主義」という傾向が、時にこの探求の足かせとなることがあります。
完璧主義を手放すことは、決して手を抜くことや無責任になることではありません。それは、「完璧でなくても大丈夫だ」と自分自身に許可を与え、不完全な自分も丸ごと受け入れるということです。不完全さを受け入れることは、人間らしい自然な姿を受け入れることであり、真の意味で自分を肯定することにつながります。
完璧を目指すことから解放され、心が軽くなることで、これまで躊躇していた新しいことにも一歩を踏み出しやすくなるでしょう。定年後の時間を、結果の完璧さを追い求めるのではなく、過程や経験、そして自分自身の心の声に耳を傾け、「今ここ」を楽しみながら、身軽に歩んでいく時間としてください。あなたの定年後の人生が、完璧でなくとも、あなたらしく輝く豊かな時間となることを願っています。